アーベントリート、詠い直し。
Posted by Saya-Abendlied - 2007.11.18,Sun
トマスをアンコナまで送ってった時の水夫の騒ぎ様と落ち込み様は凄かった。
元々人柄や能力も相俟って信用のある若者だったのだが、卒業試験とも言えるインド航路でその信用をより確固たるものにしたらしい。故郷に降り立って甲板を見上げ、大きく手を振った彼を見送ったのは水夫全員だったが、中には涙ぐむ者までいた始末だ。その筆頭がサヤの視界の隅で未だしゅんとしているシュウである。
「そんなだったらついて行けば良かったのに」
「まあまあ」
不機嫌に口を引き結ぶサヤの隣でディオが苦笑いを零しつつ彼女を宥めている。
シュウはトマスがサヤの船に乗る二月ほど前にやってきた同じく古株だったが、トマスとの歳の差は親子と言ってもいいくらいだった。同じ時分に乗り込んだこともありシュウはよくトマスの面倒を見ていたし、トマスもまたシュウに懐いていた。彼にしてみれば息子が独り立ちしてしまった気分なのかもしれない。
しかし、そこまで落ち込むのなら今からでもトマスを追いかければいいのだ。実際彼を慕ってこの船を降りた人間も数人いた。しばらくはアンコナで母親の様子を見るとトマスも言っていたし、彼が船出するのはその近くの大都市ヴェネツィアだろうから、まだマルセイユを過ぎたばかりのこの船から降りて陸路で行くなり船を捉まえて海路で行くなりすれば彼の新しい旅立ちには間に合うだろう。
「いっそ追い出してやろうか」
「それは止めとけよ」
いつものようにディオがサヤの頭をかき回す。
「あいつもいろいろ考えた結果この船に残ったんだろう。だったらそれを受け入れてやるのもお前の役目なんじゃないか」
「つったっていつまでもしょげられてちゃあね」
「そのうちいつもの調子に戻るさ。お前が膝蹴りして大袈裟に痛がるふりするぐらいにな」
元々人柄や能力も相俟って信用のある若者だったのだが、卒業試験とも言えるインド航路でその信用をより確固たるものにしたらしい。故郷に降り立って甲板を見上げ、大きく手を振った彼を見送ったのは水夫全員だったが、中には涙ぐむ者までいた始末だ。その筆頭がサヤの視界の隅で未だしゅんとしているシュウである。
「そんなだったらついて行けば良かったのに」
「まあまあ」
不機嫌に口を引き結ぶサヤの隣でディオが苦笑いを零しつつ彼女を宥めている。
シュウはトマスがサヤの船に乗る二月ほど前にやってきた同じく古株だったが、トマスとの歳の差は親子と言ってもいいくらいだった。同じ時分に乗り込んだこともありシュウはよくトマスの面倒を見ていたし、トマスもまたシュウに懐いていた。彼にしてみれば息子が独り立ちしてしまった気分なのかもしれない。
しかし、そこまで落ち込むのなら今からでもトマスを追いかければいいのだ。実際彼を慕ってこの船を降りた人間も数人いた。しばらくはアンコナで母親の様子を見るとトマスも言っていたし、彼が船出するのはその近くの大都市ヴェネツィアだろうから、まだマルセイユを過ぎたばかりのこの船から降りて陸路で行くなり船を捉まえて海路で行くなりすれば彼の新しい旅立ちには間に合うだろう。
「いっそ追い出してやろうか」
「それは止めとけよ」
いつものようにディオがサヤの頭をかき回す。
「あいつもいろいろ考えた結果この船に残ったんだろう。だったらそれを受け入れてやるのもお前の役目なんじゃないか」
「つったっていつまでもしょげられてちゃあね」
「そのうちいつもの調子に戻るさ。お前が膝蹴りして大袈裟に痛がるふりするぐらいにな」
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Posted by Saya-Abendlied - 2007.10.24,Wed
復活したとはいえ留守気味で申し訳ないなぁ。
しかしつい最近リスボンのバザーを流し見していたらこんなものが。
巷で薔薇紳士&子供王と何かと有名でいらっしゃるJulian卿ですが、何で彼の指輪がこんなところに? 気になっていろいろ聞き込みをしたところ、どうやらこの指輪は彼がどこかの港のお嬢さんにプレゼントした品物の様子。それが回りに回って何故こんな場所で売られているのかは…まぁ各人のご想像にお任せするとしましょう。
しかしJulian卿も罪作りな方ですねぇ…仕入れ発注書を手に入れようとカリブで躍起になっていた時、偶然卿がリオデジャネイロにいらっしゃると聞きつけ船を向かわせたのは記憶に新しいですが、まさかその時は様々な噂を耳にしておらず…そんな方だと知っていれば、…うぅ…
それにしても何故私はこの指輪を買い取っているのでしょうかね…
美麗な紫色の宝石を見ていると財宝とは何なのか無学な私にも理解できるような気がします。…いや、多分これは卿のことですから、
「世の中の女性は皆財宝です。だからこそ私の指輪には財宝鑑定+2のボーナスが付くのですよ。私は幸いなことに、女性一人一人の魅力をこの目で見つけ出す力を天から頂くことができた人間ですからね」
とかいうことなのでしょうね。
何だか釈然としませんが、この指輪はひとまず銀行の貸金庫に預けておくとしましょう。Julian卿がこの指輪を取り戻したいと思っているか否か定かではありませんが、少なくともご本人が返せと言うまでは、金庫の奥で眠ってもらうとしましょう。
銀行員が白い手袋で指輪をつまみ、「確かにお預かり致します」と奥に引っ込んでいくのを見守りながら、私はいつか卿に貰った美しいオパールを思い出した。
薄い七色に輝くあの宝石が今どこにあるのかは…私だけが知っていればいい話だろう。
しかしつい最近リスボンのバザーを流し見していたらこんなものが。
巷で薔薇紳士&子供王と何かと有名でいらっしゃるJulian卿ですが、何で彼の指輪がこんなところに? 気になっていろいろ聞き込みをしたところ、どうやらこの指輪は彼がどこかの港のお嬢さんにプレゼントした品物の様子。それが回りに回って何故こんな場所で売られているのかは…まぁ各人のご想像にお任せするとしましょう。
しかしJulian卿も罪作りな方ですねぇ…仕入れ発注書を手に入れようとカリブで躍起になっていた時、偶然卿がリオデジャネイロにいらっしゃると聞きつけ船を向かわせたのは記憶に新しいですが、まさかその時は様々な噂を耳にしておらず…そんな方だと知っていれば、…うぅ…
それにしても何故私はこの指輪を買い取っているのでしょうかね…
美麗な紫色の宝石を見ていると財宝とは何なのか無学な私にも理解できるような気がします。…いや、多分これは卿のことですから、
「世の中の女性は皆財宝です。だからこそ私の指輪には財宝鑑定+2のボーナスが付くのですよ。私は幸いなことに、女性一人一人の魅力をこの目で見つけ出す力を天から頂くことができた人間ですからね」
とかいうことなのでしょうね。
何だか釈然としませんが、この指輪はひとまず銀行の貸金庫に預けておくとしましょう。Julian卿がこの指輪を取り戻したいと思っているか否か定かではありませんが、少なくともご本人が返せと言うまでは、金庫の奥で眠ってもらうとしましょう。
銀行員が白い手袋で指輪をつまみ、「確かにお預かり致します」と奥に引っ込んでいくのを見守りながら、私はいつか卿に貰った美しいオパールを思い出した。
薄い七色に輝くあの宝石が今どこにあるのかは…私だけが知っていればいい話だろう。
Posted by Saya-Abendlied - 2007.10.11,Thu
トマスの奴の卒業試験やら、南米での再会やら書きたいことはたくさんあるんだが、ちょっとその前にニュースが出来たんだ。
Posted by Saya-Abendlied - 2007.10.06,Sat
トマスはBastardSwordに乗る船員の中では年若い方だ。
それでも彼は古株である。何せ船長であるサヤがまだ斜陽の都に籍を置いていた頃からその下にいるのだ。アドリア海をせっせと往復していた頃に比べると、トマスは背も伸びたし筋肉もついた。サヤが随分前に初めて冒険者ギルドの扉を叩き、操帆の技術を学び始めてからは、その隣で誰よりも熱心に技術を盗もうと努力していた。おかげて現在、BastardSwordの操帆手筆頭は彼である。帆に関してなら、動かすのは彼、繕うのはサヤといった感じだ。
「なぁトマス、あんたの夢って何?」
そんなわけでトマスは新入りの船員達のように船長にいきなり話しかけられても驚かない。その日も突拍子もなく飛んできた質問に彼は視線をついと青空に移し、少し考えて彼と彼女の母国語のイタリア語で呟いた。
「夢、ですか」
「別に深い意味はないんだけどね。…まぁ、シュウの奴は「船長と真逆の女と一緒になることですかね」っつってたから、飛び回し蹴りかましといたけど」
サヤは英語からイタリア語に切り替えつつ正面の空間に向かって足の裏をげしっと突き出す。スカートを穿いていた時と比べて確実に足癖が悪くなっている船長に兄貴分のディオさんは頭を抱えてるんだろうなぁと頭の隅で思いながら、トマスは深く考えずにつらつら話し始める。
「俺は、いつか自分の船を持ちたいです」
「ふうん?」
サヤは隣に立つトマスを見上げて片目を細めた。
「別にここが嫌だってわけじゃないんです。まだここにいたいし、まだ勉強したいし。…で、勉強して、立派になったら、今度は自分の船でいろんなとこに行きたいなぁなんて…それが夢、ですかね」
にへらと笑って答えたトマスにサヤも笑い返し、だいぶ高い位置にあるその頭をがしがしとかいた。
「ま、それなら商売の基本はばっちり叩き込んでやるさ」
「…商売ですか?」
「何その不満そうな顔。あんたね、食料も水も船員雇うのも金が要るんだよ? 商売っていうのはねぇ」
突如始まった青空教室に苦笑を漏らしつつ、トマスはまた青空を見上げた後少しの間だけ目を閉じた。
風は順風。波も申し分ない。帆は一杯に開き風を受けて僅かに膨らみ、船員達の声や歌が耳に心地いい。
「ねぇ船長」
「あ?」
「いい天気ですねー」
人の話を聞けとでも言いたげにすこんと短剣の鞘がトマスの後ろ頭を殴った。
それでも彼は古株である。何せ船長であるサヤがまだ斜陽の都に籍を置いていた頃からその下にいるのだ。アドリア海をせっせと往復していた頃に比べると、トマスは背も伸びたし筋肉もついた。サヤが随分前に初めて冒険者ギルドの扉を叩き、操帆の技術を学び始めてからは、その隣で誰よりも熱心に技術を盗もうと努力していた。おかげて現在、BastardSwordの操帆手筆頭は彼である。帆に関してなら、動かすのは彼、繕うのはサヤといった感じだ。
「なぁトマス、あんたの夢って何?」
そんなわけでトマスは新入りの船員達のように船長にいきなり話しかけられても驚かない。その日も突拍子もなく飛んできた質問に彼は視線をついと青空に移し、少し考えて彼と彼女の母国語のイタリア語で呟いた。
「夢、ですか」
「別に深い意味はないんだけどね。…まぁ、シュウの奴は「船長と真逆の女と一緒になることですかね」っつってたから、飛び回し蹴りかましといたけど」
サヤは英語からイタリア語に切り替えつつ正面の空間に向かって足の裏をげしっと突き出す。スカートを穿いていた時と比べて確実に足癖が悪くなっている船長に兄貴分のディオさんは頭を抱えてるんだろうなぁと頭の隅で思いながら、トマスは深く考えずにつらつら話し始める。
「俺は、いつか自分の船を持ちたいです」
「ふうん?」
サヤは隣に立つトマスを見上げて片目を細めた。
「別にここが嫌だってわけじゃないんです。まだここにいたいし、まだ勉強したいし。…で、勉強して、立派になったら、今度は自分の船でいろんなとこに行きたいなぁなんて…それが夢、ですかね」
にへらと笑って答えたトマスにサヤも笑い返し、だいぶ高い位置にあるその頭をがしがしとかいた。
「ま、それなら商売の基本はばっちり叩き込んでやるさ」
「…商売ですか?」
「何その不満そうな顔。あんたね、食料も水も船員雇うのも金が要るんだよ? 商売っていうのはねぇ」
突如始まった青空教室に苦笑を漏らしつつ、トマスはまた青空を見上げた後少しの間だけ目を閉じた。
風は順風。波も申し分ない。帆は一杯に開き風を受けて僅かに膨らみ、船員達の声や歌が耳に心地いい。
「ねぇ船長」
「あ?」
「いい天気ですねー」
人の話を聞けとでも言いたげにすこんと短剣の鞘がトマスの後ろ頭を殴った。
Posted by Saya-Abendlied - 2007.10.04,Thu
商用ガレオンBasterdSwordが現在航海しているのは大西洋の北側、マディラ-サンファン間の航路である。
外からは航行中の作業の音だったり気を紛らわす下品な歌だったりが聞こえてくるものの、船長室が近いこの廊下はだいたい静まり返っていて己の足音がいやに耳につく。
ディオは突き当たりの扉をノックした。
「サヤ、ディオだ」
「開いてるよ」
軋む扉の向こうにはこの船で一番上等な作りの椅子に腰掛けた女がいた。年の頃は二十歳を少し過ぎたくらいか。編み上げブーツを履いた足は椅子の正面にある大きな机の上に組まれているという、お世辞にも行儀が良いとは言えない体勢。彼女が昔好んで履いていた短い丈のスカートでは完全にアウトだった姿勢だが、現在は衣替えして男用のブラコーニを履いているので一応セーフではある。上衣はやはり男物のダブレット、更に彼女は髪を短く切っているから、遠めに見ればどこかの貴族の少年のように見えるかもしれない。足の真横には散らないように重石を乗せられた何らかの書類が数十枚、女の手元には編み棒、椅子の足元には転がった鈍い赤色の毛糸玉。せっせと動く手元は全く休まらず、編み棒から伸びる平たい布地の長さはまだ三インチといったところだろう。
ディオは後ろ手に扉を閉め、それに背を預けて腕を組んだ。
「あれ? 一本編み終わったのか」
「いんや、幅が太すぎたからほどいて編み直し」
「ほどいたのか? あれ確か…」
「毛糸玉二つと半分くらいかな。途中で絡まって大変だったよ」
そこでやっと女は手を止めて、足を床に下ろし編み棒と毛糸玉をテーブルの端に置いた。
「報告。航海は順調、船員も快調。ただ水がちょっと気になるかな」
「そればっかりはねぇ、雨を待つしかないからね…報告ご苦労」
「アイ・マム。…どのくらい集まったんだ?」
ディオは台詞の途中で歩き出すと書類の重石をどかしてその全てを手に取った。女が表情を変えずに告げる。
「百枚ちょっと」
「随分集めたな」
「まだまだやるよ? 皆には悪いけど、もうしばらくはこの航路の往復だ。溜められるだめ溜めといた方がいいし」
書類には全て"第三種仕入れ発注書"と書かれている。特別な依頼を受けないと手に入らないこの発注書は他の入手手段は別の航海者に売ってもらうしか手はないのだが、便利なこれは場所や時間によってはたたでさえ高い相場に更に上乗せされた値段で取引されることも多く、まとまった数を手に入れようとするとかなりの額を手放さなければならなくなる。
現在この船はその書類を手に入れるための依頼の真っ最中だった。サンファンに寄港した後はそのままサントドミンゴに入り依頼達成、その後は現地のギルドからセビリア行きの依頼を請け負ってまた大西洋を横切る。この一連の流れで目的の書類を二十枚弱手に入れることが出来るのだ。
「せめて二百枚かな」
「集めるなー。ま、こっちは別に文句はない」
ディオはくるりと踵を返し扉のノブに指を這わせ、思い出したように振り返った。
「で? そのマフラー、誰にやるんだ?」
「自分用だよ」
この船の主、サヤ・アーベントリートは ひょいと肩を竦めて立ち上がり、帽子掛けからソンブレロを手に取ってディオの背に続いた。
外からは航行中の作業の音だったり気を紛らわす下品な歌だったりが聞こえてくるものの、船長室が近いこの廊下はだいたい静まり返っていて己の足音がいやに耳につく。
ディオは突き当たりの扉をノックした。
「サヤ、ディオだ」
「開いてるよ」
軋む扉の向こうにはこの船で一番上等な作りの椅子に腰掛けた女がいた。年の頃は二十歳を少し過ぎたくらいか。編み上げブーツを履いた足は椅子の正面にある大きな机の上に組まれているという、お世辞にも行儀が良いとは言えない体勢。彼女が昔好んで履いていた短い丈のスカートでは完全にアウトだった姿勢だが、現在は衣替えして男用のブラコーニを履いているので一応セーフではある。上衣はやはり男物のダブレット、更に彼女は髪を短く切っているから、遠めに見ればどこかの貴族の少年のように見えるかもしれない。足の真横には散らないように重石を乗せられた何らかの書類が数十枚、女の手元には編み棒、椅子の足元には転がった鈍い赤色の毛糸玉。せっせと動く手元は全く休まらず、編み棒から伸びる平たい布地の長さはまだ三インチといったところだろう。
ディオは後ろ手に扉を閉め、それに背を預けて腕を組んだ。
「あれ? 一本編み終わったのか」
「いんや、幅が太すぎたからほどいて編み直し」
「ほどいたのか? あれ確か…」
「毛糸玉二つと半分くらいかな。途中で絡まって大変だったよ」
そこでやっと女は手を止めて、足を床に下ろし編み棒と毛糸玉をテーブルの端に置いた。
「報告。航海は順調、船員も快調。ただ水がちょっと気になるかな」
「そればっかりはねぇ、雨を待つしかないからね…報告ご苦労」
「アイ・マム。…どのくらい集まったんだ?」
ディオは台詞の途中で歩き出すと書類の重石をどかしてその全てを手に取った。女が表情を変えずに告げる。
「百枚ちょっと」
「随分集めたな」
「まだまだやるよ? 皆には悪いけど、もうしばらくはこの航路の往復だ。溜められるだめ溜めといた方がいいし」
書類には全て"第三種仕入れ発注書"と書かれている。特別な依頼を受けないと手に入らないこの発注書は他の入手手段は別の航海者に売ってもらうしか手はないのだが、便利なこれは場所や時間によってはたたでさえ高い相場に更に上乗せされた値段で取引されることも多く、まとまった数を手に入れようとするとかなりの額を手放さなければならなくなる。
現在この船はその書類を手に入れるための依頼の真っ最中だった。サンファンに寄港した後はそのままサントドミンゴに入り依頼達成、その後は現地のギルドからセビリア行きの依頼を請け負ってまた大西洋を横切る。この一連の流れで目的の書類を二十枚弱手に入れることが出来るのだ。
「せめて二百枚かな」
「集めるなー。ま、こっちは別に文句はない」
ディオはくるりと踵を返し扉のノブに指を這わせ、思い出したように振り返った。
「で? そのマフラー、誰にやるんだ?」
「自分用だよ」
この船の主、サヤ・アーベントリートは ひょいと肩を竦めて立ち上がり、帽子掛けからソンブレロを手に取ってディオの背に続いた。
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