アーベントリート、詠い直し。
Posted by Saya-Abendlied - 2007.10.04,Thu
商用ガレオンBasterdSwordが現在航海しているのは大西洋の北側、マディラ-サンファン間の航路である。
外からは航行中の作業の音だったり気を紛らわす下品な歌だったりが聞こえてくるものの、船長室が近いこの廊下はだいたい静まり返っていて己の足音がいやに耳につく。
ディオは突き当たりの扉をノックした。
「サヤ、ディオだ」
「開いてるよ」
軋む扉の向こうにはこの船で一番上等な作りの椅子に腰掛けた女がいた。年の頃は二十歳を少し過ぎたくらいか。編み上げブーツを履いた足は椅子の正面にある大きな机の上に組まれているという、お世辞にも行儀が良いとは言えない体勢。彼女が昔好んで履いていた短い丈のスカートでは完全にアウトだった姿勢だが、現在は衣替えして男用のブラコーニを履いているので一応セーフではある。上衣はやはり男物のダブレット、更に彼女は髪を短く切っているから、遠めに見ればどこかの貴族の少年のように見えるかもしれない。足の真横には散らないように重石を乗せられた何らかの書類が数十枚、女の手元には編み棒、椅子の足元には転がった鈍い赤色の毛糸玉。せっせと動く手元は全く休まらず、編み棒から伸びる平たい布地の長さはまだ三インチといったところだろう。
ディオは後ろ手に扉を閉め、それに背を預けて腕を組んだ。
「あれ? 一本編み終わったのか」
「いんや、幅が太すぎたからほどいて編み直し」
「ほどいたのか? あれ確か…」
「毛糸玉二つと半分くらいかな。途中で絡まって大変だったよ」
そこでやっと女は手を止めて、足を床に下ろし編み棒と毛糸玉をテーブルの端に置いた。
「報告。航海は順調、船員も快調。ただ水がちょっと気になるかな」
「そればっかりはねぇ、雨を待つしかないからね…報告ご苦労」
「アイ・マム。…どのくらい集まったんだ?」
ディオは台詞の途中で歩き出すと書類の重石をどかしてその全てを手に取った。女が表情を変えずに告げる。
「百枚ちょっと」
「随分集めたな」
「まだまだやるよ? 皆には悪いけど、もうしばらくはこの航路の往復だ。溜められるだめ溜めといた方がいいし」
書類には全て"第三種仕入れ発注書"と書かれている。特別な依頼を受けないと手に入らないこの発注書は他の入手手段は別の航海者に売ってもらうしか手はないのだが、便利なこれは場所や時間によってはたたでさえ高い相場に更に上乗せされた値段で取引されることも多く、まとまった数を手に入れようとするとかなりの額を手放さなければならなくなる。
現在この船はその書類を手に入れるための依頼の真っ最中だった。サンファンに寄港した後はそのままサントドミンゴに入り依頼達成、その後は現地のギルドからセビリア行きの依頼を請け負ってまた大西洋を横切る。この一連の流れで目的の書類を二十枚弱手に入れることが出来るのだ。
「せめて二百枚かな」
「集めるなー。ま、こっちは別に文句はない」
ディオはくるりと踵を返し扉のノブに指を這わせ、思い出したように振り返った。
「で? そのマフラー、誰にやるんだ?」
「自分用だよ」
この船の主、サヤ・アーベントリートは ひょいと肩を竦めて立ち上がり、帽子掛けからソンブレロを手に取ってディオの背に続いた。
外からは航行中の作業の音だったり気を紛らわす下品な歌だったりが聞こえてくるものの、船長室が近いこの廊下はだいたい静まり返っていて己の足音がいやに耳につく。
ディオは突き当たりの扉をノックした。
「サヤ、ディオだ」
「開いてるよ」
軋む扉の向こうにはこの船で一番上等な作りの椅子に腰掛けた女がいた。年の頃は二十歳を少し過ぎたくらいか。編み上げブーツを履いた足は椅子の正面にある大きな机の上に組まれているという、お世辞にも行儀が良いとは言えない体勢。彼女が昔好んで履いていた短い丈のスカートでは完全にアウトだった姿勢だが、現在は衣替えして男用のブラコーニを履いているので一応セーフではある。上衣はやはり男物のダブレット、更に彼女は髪を短く切っているから、遠めに見ればどこかの貴族の少年のように見えるかもしれない。足の真横には散らないように重石を乗せられた何らかの書類が数十枚、女の手元には編み棒、椅子の足元には転がった鈍い赤色の毛糸玉。せっせと動く手元は全く休まらず、編み棒から伸びる平たい布地の長さはまだ三インチといったところだろう。
ディオは後ろ手に扉を閉め、それに背を預けて腕を組んだ。
「あれ? 一本編み終わったのか」
「いんや、幅が太すぎたからほどいて編み直し」
「ほどいたのか? あれ確か…」
「毛糸玉二つと半分くらいかな。途中で絡まって大変だったよ」
そこでやっと女は手を止めて、足を床に下ろし編み棒と毛糸玉をテーブルの端に置いた。
「報告。航海は順調、船員も快調。ただ水がちょっと気になるかな」
「そればっかりはねぇ、雨を待つしかないからね…報告ご苦労」
「アイ・マム。…どのくらい集まったんだ?」
ディオは台詞の途中で歩き出すと書類の重石をどかしてその全てを手に取った。女が表情を変えずに告げる。
「百枚ちょっと」
「随分集めたな」
「まだまだやるよ? 皆には悪いけど、もうしばらくはこの航路の往復だ。溜められるだめ溜めといた方がいいし」
書類には全て"第三種仕入れ発注書"と書かれている。特別な依頼を受けないと手に入らないこの発注書は他の入手手段は別の航海者に売ってもらうしか手はないのだが、便利なこれは場所や時間によってはたたでさえ高い相場に更に上乗せされた値段で取引されることも多く、まとまった数を手に入れようとするとかなりの額を手放さなければならなくなる。
現在この船はその書類を手に入れるための依頼の真っ最中だった。サンファンに寄港した後はそのままサントドミンゴに入り依頼達成、その後は現地のギルドからセビリア行きの依頼を請け負ってまた大西洋を横切る。この一連の流れで目的の書類を二十枚弱手に入れることが出来るのだ。
「せめて二百枚かな」
「集めるなー。ま、こっちは別に文句はない」
ディオはくるりと踵を返し扉のノブに指を這わせ、思い出したように振り返った。
「で? そのマフラー、誰にやるんだ?」
「自分用だよ」
この船の主、サヤ・アーベントリートは ひょいと肩を竦めて立ち上がり、帽子掛けからソンブレロを手に取ってディオの背に続いた。
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Eurosはイングランド籍の紡績商。ヴェネツィア産まれのロンドン育ち、カンスト縫製15+1の21/42/15。
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